和牛のいる生活

北海道で牛飼いの勉強中です。

0214 / あの日、駅のホームで

こんにちは。写真はお友達が札幌土産でくれたかんわいいサブレ缶。
サブレなんだけど生地がしっかりしていて、噛むとほろっとほどけてとてもおいしかった。それぞれフレーバーが違うのもいい……お気に入りはお花のサブレ(いちご味)。

◆2月14日(水)
バレンタインデー。今年は(も)何もなし。私が今の半分くらいの年齢の頃は、バレンタインといえば一大イベントであった。
ティーンという多感な時期だったのもそうだし、今よりもっと世間が「バレンタイン!!!恋愛!!!女子がッ!!!男子にッ!!!告白する日ッ!!!」という雰囲気だった気がする。
私は気がついたときにはもう女子校に通っていて異性という存在を知らずに育ち、高校生ともなればおニャン子クラブもびっくりのMI・MI・DO・SHI・MAであった。
完全に「恋に恋して」いた私は、このころに通い始めた塾で初めて同年代の異性と接することになる。
そして時代はmixi全盛期、直接連絡先を交換しなくてもインターネット上で個人的なやり取りをすることが可能になっていた。
かくして、恋する環境は準備された。あとは気持ちのギアを入れるだけだ。

それはそれは前のめりに恋人候補を探していた私は、塾の同じクラスの子を好きになった。仮に赤丸くんとしよう。見た目がタイプだったし、人懐っこくて誰にでも気さくに話しかけるところがよかった。
当時は電車通学をしていて、もう信じられないくらいの満員電車(今ではあの環境がどれだけ異常だったかわかる)で毎日学校へ揺られていた。その同じ車両に、赤丸くんは乗っていたのだ。
あんなに混んでいた車内で最初にどうやって気づいたのかは覚えていない。彼は私が乗るより手前の駅を使っていて、電車のドアが開くときにはまだ車内の様子を確認できる程度の混み具合だったからだったかなあ。とにかく、私と赤丸くんは毎朝毎朝同じ電車の同じ車両に乗り、同じようにおっさんたちに押しつぶされていた。
どこにいるのかわからないくらい遠くにいることもあったし、ギュギュッと詰め込まれた影響で背中合わせで密着することもあった。死ぬかと思った。

こうしてドキドキ通学していたわけだが、当時の私は単にMI・MI(略)であり実践力はゼロだったため、彼に声をかけることはできなかった。
今なら挨拶するなり事前にLINEするなりしてなんとかコンタクトを取っていただろう。でも当時は本当にただもじもじ電車に乗っているだけだった。
塾で話せばいいだろって?ええ、たまにみんなに紛れて「わかるーw」くらいは話していましたよ。
そして迫るバレンタインデー。私は決意した。赤丸くんに、チョコを、渡す!!!
告白するつもりはない。そんなまともにしゃべったこともない女に告られるとか怖すぎるし、なにより告白する勇気なんてない。とりあえず少しでも距離を縮めたかった。
何も知らない母に「いつもみたいに友チョコたくさん作る!あ、塾でよく会うアイツ(≠赤丸くん、男友達)にだけは渡すわw」とウソをつき、協力を得ながら赤丸くん宛てのチョコレートを作成した。

勢いづいてチョコは作ったものの……これ渡せるのかなあ……と急に不安になる。今まで2人で話したこともないのに?無理じゃない?
出した結論は「予告」であった。赤外線で交換したであろうメアドに「明日チョコ渡したいからいつもの電車に乗ってね!」と送った、気がする。mixiのメッセージだったかもしれない。
「いつもの電車ね、オッケー!」みたいな返事が来てものすごくうれしくなった。赤丸くんも「いつもの電車」と思ってくれていたのだ。もうこれで十分だった。
さて当日。私は緊張で死にそうになっていた。だが予告した手前、渡さないわけにはいかない。ホームに電車が来る。ドアが開く。赤丸くんが乗っている。ギュウギュウに詰め込まれる。渡せない距離じゃないと思うけど……無理だ。
あーーーーーーーーーと思っている間に乗り換え駅に着き、電車を降りる。赤丸くんも同じ駅で乗り換えるので、電車を降りた。赤丸くんが乗り換えるのは別の電車だから、今しかない。

名前も呼べずに背中をつっつき、「あのこれ、言ってたやつ!」と紙袋を押し付けて相手の顔も見ずに乗り換え先の電車に乗った。
そのあとは覚えていない。渡す瞬間、自分の周りがとても静かになった気がした。
彼からはホワイトデーにハチ公前で待ち合わせしてクッキーのお返しをもらった。「クッキーを渡すのは『お友達でいましょう』という意味です!」というインターネットの情報を見てちょっぴり傷ついた。

バレンタインデーのあとも、私たちの関係になにも変化はなかった。相変わらずみんなでカラオケに行き、ファミレスに行き、意味もなくおしゃべりをした。
私は赤丸くんの学校の文化祭で彼がミスターコンテストに出場し、下ネタ混じりの発言(今思えば当然台本なのだが、そのときはそれが彼の本心だと思っていた)をしているのを聞いてちょっと引き、結局1年後くらいにその塾の別の男の子と付き合った。

受験勉強が本格化し、人気のない教室で勉強するために電車の時間を早めたのがきっかけだったか、車両を変えても電車を変えても気づけば後ろに並んでいる得体のしれないおっさんを撒くために思いきり時間をずらしたのがきっかけか、もう覚えていないけれど、高校を卒業するころにはもう彼と電車が被ることはなくなっていた。
今はもう味わうことのないあの緊張感と高揚感をたまに思い出してぴりりとした気持ちになる。若かったなあ、青かったなあ。

そんな記憶に思いを馳せながら、いつもよりちょっと早めに就寝。

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たまには思い出話もいいよね。
それではまた👋

今週のお題「ほろ苦い思い出」