和牛のいる生活

北海道で牛飼いの勉強中です。

私が牛にハマる10の理由

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牛はいいぞ。(この記事は、はてなブログ10周年特別お題「私が◯◯にハマる10の理由」に参加しています)
ということで今日は、私が牛を好きな理由を10綴ってみることにする。
大学に入学するまで、牛はあまり眼中になかった。蹄のある動物が好きで、動物図鑑では家畜やサバンナに生息する鹿の仲間などのページばかり眺めていたが、一番好きだったのは馬だった。北海道の大学に進学したのも馬の勉強ができるからだ。
しかし、馬の研究をするためには大学から車で2時間の研究牧場に通わなければならず、キャンパスでの授業が多い学部生の間は大学の敷地内で飼っていた牛を題材に研究することになった。牛と触れ合う第一歩である。
最初のうち、牛はあくまで研究材料であり、あまりかわいいと感じなかった。それが今では北海道の肉牛牧場に永久就職する予定なのだから、人生どう転ぶか分からない。
前置きが長くなってしまったが、1つずつ書いていく。

1. 見た目がかわいい
シンプルだが一番の理由かもしれない。特に子牛は本当にキュートだし、まだ幼く好奇心旺盛な感じがとてもかわいい。
ホルスタイン、黒毛和牛、F1、ジャージー、短角と品種によってそれぞれの良さがあるのもいい。ホルスタインのちょっと図々しい雰囲気も憎めないし、和牛がのんびり反芻しているのを見るとなんだか癒される。
見た目で言うなら、私はF1の子牛が一番かわいいと思っている。牛によってちょっとずつ模様が違うし、ちょっとむっくりした感じの体つきがたまらない。

2. 性格がかわいい
よく聞かれるのだが、牛たちはなかなかに個性豊かである。
人懐こい子もいればそうでない子もいるし、物おじせず何にでも突っ込んでいく子やビビりで私がちょっと動いただけでどこかへ跳んでいってしまう子もいる。決まった場所で排泄する子もいるし、よく食べよく飲みよく出す子もいる。
子牛の頃は1頭ずつ面倒を見るのでより個性が際立つ。ミルクの飲み方が下手な子、哺乳の時間が近づくと限界まで柵から顔を出してアピールする子、とりあえずメーメー鳴いてみる子、控えめにいつも座っている子。
彼ら彼女らの個性を見ていると本当にかわいく、どの子も大切にしたいと思う。
牛たちを見ていると喜怒哀楽を感じることも多い。敷料を新しくすると飛び跳ねて喜んでいるし、去勢や除角の後はしょんぼりした顔をしている(ように見える)。
気持ちよく晴れた日に陽だまりのなかで反芻している牛は幸せそうに見える。牛の表情を眺めているのは私にとって幸せな時間だ。

3. 素直
牛は素直である。与えられた環境や飼料によってその生産性は大きく変化するし、人間の接し方で人間に対する態度も変わる。
そしてその変化は関わる人間の見た目や肩書きには全く左右されない。当たり前なのだが、自分の関わり方がそのまま反映されることは動物を飼うにあたっての大きな魅力だと感じる。
心が荒んでいても、いつも変わらず喜んでミルクを飲んでくれる子牛を見るとこちらが元気になる。
牛飼いの魅力は「牛に嘘をつかなくても良いこと」なんて言うけれど、これは本当じゃないかなあ。牛だけでなく他の動物にも言えることだけど、忖度や謙遜なしにシンプルに接することができる存在というのは貴重で、大きな癒し効果を持っていると思う。

4. おいしい
飼っている人が言うと残酷に聞こえるかもしれないが、おいしく食べることができることも牛の大きな魅力だ。
牛肉そのものはもちろん、乳製品やお菓子、パンなど牛が関わっている食べ物は多い。
生産調整という不穏な響きが聞こえている現在、牛乳や乳製品を積極的に摂って生乳の消費に貢献したい。

5. 奥が深い
競走馬の世界と同じように、牛の世界も血統が重要視されている。
私はまだ勉強中だが、血統の特徴を覚えて、これにはこの牛が合いそう、これにはあの牛が合いそう、と考えて使う種を決め、生まれた子牛を見てこの気質はお父さん譲りで〜とかお母さんに似て毛の感じが〜とか話すのは楽しい。
もちろん血統だけではなく飼い方や環境で同じ牛でも成績は変化して、それがまた面白い。特に乳牛は毎日の飼養管理が乳量や乳質にそのまま反映されるので面白いと思う。
肉牛についても、同じように育てていても枝肉が全然違ったりして、その原因や改善点を探っていくのが醍醐味だと感じる。

6. 再現性がない
これは牛飼いという職業について言えることだが、牛の主要な飼料である牧草の質が年によって変わるため、常に同じ質の草を供給することができない。質の悪い草だったり、収量が足りなかったりする場合は、リカバリーのために工夫をする必要がある。反対にいい草ができた場合でも、給与しすぎて栄養過多にならないよう気を配らなければならない。
牧草収穫の作業自体も空模様と睨めっこで、毎年異なる判断が必要になる。牛の管理についても特に子牛の治療などは複雑で、あの子がこれで治ったからこの子も同じ処置で治る…という限りではない。基本はうまくいった方法をトレースして改善していけば良いのだが、その年の状況や牛の状態を見て対応を変えなければいけないのが難しさであり、面白みだと思っている。

7. 変化を好まない
これは牛が変化を好まない、という話。牛は変化が苦手な動物で、気温や飼料の変化に敏感に反応する。言い換えれば調子のいい牛はいつも一定で、その変わらない様子は見ていて安心する。
朝行けばお腹を空かせた牛が待っていて、21日周期で発情が来て、280日の妊娠期間を経て分娩する。牛そのものは変わっても、大きな流れは変わらない。私の気質的に、「変わらない」ということが安心につながっているのかな(CMとか、毎回同じところで同じ決め台詞が来るものが好き)。

8. 不思議な生態
牛の生態はマジ謎である。まず胃が4つあるというのが不思議。
しかも一番大きな胃(ルーメン)は浴槽くらいの大きさがあって、メインの消化活動は牛ではなくそこに棲む微生物が行なっている。生まれたての子牛はまだ微生物を持っていないから、最初はミルクを別の胃でチーズ状に固めてから消化する。そしてだんだんルーメンが発達していき、そちらで消化を行うようになるのだ。消化を担う器官が成長するにつれて変わるというのは、おたまじゃくしがカエルになるようなものでとても興味深い。
一度食べたものを口腔内に戻して反芻するのも草食動物という感じがして面白い。生まれてから数時間の間は腸管が隙間を開けてお母さんの初乳から得られる免疫を得やすくしているのも面白い(24時間経つと閉じてしまい、免疫をあげても吸収できなくなる)。
人間がどう頑張っても利用できない草をわしわし食べ、生まれたときの20倍くらいの体重になったり毎日数十kgのミルクを生産したりするというのは本当にすごいことである。

9. バリエーション豊か
牛も、牛飼いも、バリエーション豊かである。まず酪農か畜産かで違うし、飼っている品種も牛舎の構造も異なる。飼い方も人それぞれで、自前の牧草なのか買っているのか、配合飼料はどんな種類なのか、病気をしたときにどういうふうに対応しているか、牛の改良をどのような方向性で行なっているか、100の農家があれば100のやり方がある。
だからSNSやブログで牛飼いの人の発信を見るのは楽しいし、色々な気づきがある。

10. 飽きない
つらつら並べてきたが、結局のところこれに尽きる。
牛というのは関わっていて飽きない。2日酔いの日も、もう少し寝ていたい日も(ほぼ毎日)、いざ牛を目の前にすると体が動く。牛たちは個性豊かで眺めていても飽きないし、基本は同じ作業でも状況に合わせて少しづつ対応を変える必要があるのも面白い。
大人しく席に座って作業をするのが大の苦手な私にとって、服装や立ち居振る舞いを気にせず牛に向き合えるこの仕事はとても向いていると感じている。

ふう。とても長くなってしまったが、私が牛に対して感じている気持ちを整理することができた気がする。
牛はかわいくて美味しくて奥が深く、飽きない。これからも和牛のいる生活をマイペースに発信していけたらいいな。